スクープ報道

スクープ報道

感じた疑問を追求できる風土。チームワークで難題を突破できる力。それが、社会を変える「スクープ」を生む。 感じた疑問を追求できる風土。チームワークで難題を突破できる力。それが、社会を変える「スクープ」を生む。

たとえば「教科書謝礼問題」。ある記者の志が、報道の発端に。 たとえば「教科書謝礼問題」。ある記者の志が、報道の発端に。

読売新聞には、長年受け継がれている伝統がある。それは、元日の朝刊一面トップに必ず「スクープ」を報じることだ。まだ世の中に知られていない重要な事実をいち早く伝えること。それが報道機関としての読売新聞の不変の使命である。
そして2016年元日に掲載されたのは「教科書謝礼問題」に関連する記事であった。教科書会社が、検定中の教科書を学校の教師に見せ、意見を聞いた謝礼の名目で現金を渡していたこの問題は、読売新聞のスクープ報道によって明らかになった。教科書の検定は外部の意見に左右されず公平公正に行われるべきであり、検定中の教科書を見せることは禁じられている。にもかかわらず、大手教科書会社の営業担当者が教師側に見せ、金銭の授受も明らかになった。以降、他の教科書会社でも次々と同様の行為が全国規模で発覚。教育現場への不安や不信が募り、行政も改革に乗り出した。
このスクープの端緒をつかんだのが、文部科学省の担当だった朝来野である。
「当時、文科省が全国の教育委員会に『教科書会社が過度な営業活動を行っている』と注意を促していて、もしかすると何か問題があるのでは?と関心を抱き、独自に取材を開始したのです」。
読売新聞は、キャリアにかかわらず、自分が関心を持った問題を記事にすることを奨励する風土があると朝来野は言う。彼女は文部科学省で日々行われる記者会見に対応する傍ら、この問題を追いかけていった。別にノルマが課せられているわけではない。それでも彼女が時間を見つけて取材するのは、ただ当局から発表された内容をまとめて書くだけでは、記者の務めは果たせないと考えるからだ。
自分が伝えなければ、その問題が世の中に知られぬままに過ぎてしまう。記者を務めるからには「自分にしかできない仕事」で社会の役に立ちたい。そんな想いが朝来野の原動力だ。そして、彼女は『大手教科書会社が校長に現金を渡している』という情報をキャッチした。
「過度な営業活動は業界内でのルール違反の範疇ですが、現金が渡っているとなると教科書の公正な選定プロセスを揺るがすことになり、絶対に見逃せないと」。

被災者の方々の経験から、未来に向けて命を守るための教訓を。 被災者の方々の経験から、未来に向けて命を守るための教訓を。

朝来野は、同じく文部科学省担当の記者である同僚の桜木とともに取材を重ね、確証を得たところで、その大手教科書会社に二人で取材にあたった。朝来野は述懐する。
「先方の幹部と面会し、こちらが集めた証拠を提示すると、現金の授与があったことをその場で認め、その翌日に記事にしました」。
朝刊に掲載されたこの記事は大きな反響を呼んだ。そして、問題はそれだけにはとどまらなかった。
「取材を続けるうち、一社だけではなく業界全体で不正が横行しているのではないかという疑念が湧き、引き続き追及していこうと。教育部だけでなく、社会部からも記者が集まって取材チームが結成され、真相を解明しようと動き出しました」。
社会にとって重要なテーマだと判断されれば、読売新聞は機動的に人員を充てて強力な取材体制を組む。そのチームのなかで桜木も尽力した。
「教科書の選定過程で不正が行われているとなると、それは学校教育を信頼している親や子どもたちを裏切る行為。是が非でも事実を明らかにして伝えたいと。そして『別の大手教科書会社も教育関係者に金品を渡している』という情報をもとに、取材を続けたのです」。
桜木はその教科書会社を訪れて幹部と面会。当初、不正行為は考えられないと否定したものの、桜木は「社内調査をして回答を」と迫った。
「こちらの手元には、チームの記者のみんなが集めてきた確度の高い情報があった。それを示して強く訴えたところ、社内調査を了承。その結果、金品の授与があったことを認めたのです」。こうして教科書謝礼問題が業界全体にはびこる問題だと判明し、それが2016年元日朝刊のスクープにつながった。桜木は語る。
「取材チームの面々が話し合いながら戦略を定め、みんなで全国を駆けずり回って確かな情報を集めていました。私がその教科書会社に赴いた日、先方から否定されても食い下がったのは、不正を質したいという気持ちはもちろん、仲間の努力や苦労を絶対に無駄にはできないという強い覚悟もありました。こうしたチームワークから生まれる粘り強い取材と突破力が、読売新聞のスクープの源だと思います」。

不正を追及するだけではなく、その先の解決策も社会に示していく。 不正を追及するだけではなく、その先の解決策も社会に示していく。

この元日のスクープも含めて、結果として朝来野をはじめとする取材チームは1年近くの間に10本以上のスクープ、計9回にわたる連載、さらに節目には問題を詳しく説明する特集記事や背景を分析する解説記事など多角的な報道を繰り広げた。朝来野は言う。
「読売新聞は、社会にとって重要なテーマだと認められれば、問題を深く掘り下げて記事を書くことができる。記者にとっては理想的な環境です。今回の一連の報道については、業界の不正がこれほどの広がりを見せたことに驚きましたが、同時に問題の根深さを感じ、きちんと問題の全容を把握し、問題点を指摘できるような取材を心がけなくてはと強く思うようになりました。最初は不正を行った会社への追及が主でしたが、相次いで発覚してからは、業界の実態や、どのようにしたら不正を防げるかを常に考えて記事を執筆していきました」。

こうした読売新聞の報道に、社会も大きく動いた。文部科学省と教科書業界は、教科書採択に至る過程の透明性を担保するため、ルールの見直しを図り、不正を防止するシステムを構築する運びとなった。桜木はこう語る。
「ルールを逸脱して利益を追求する教科書会社だけでなく、安易な気持ちで金品を受け取っていた教育関係者にも反省を促す契機になったと思います。一方で心配なのは、教育現場が萎縮して、教科書会社との接触を避ける事態になること。先生方が感じている教科書の利点や疑問、改善点などが、教科書の制作に反映されないのでは本末転倒。この一件を踏まえて、先生方の意見を正しくしっかりと吸い上げる仕組みをつくり、子どもたちのためになる教科書が増えていくことを願っています」。
読売新聞は今後も文部科学省や教科書会社の動きを追い、再び不正行為が行われていないかチェックしていく姿勢だ。この教科書謝礼問題のように、人々の生活に身近でありながら、世間の目が届きにくいところで重大な問題が潜んでいるケースはたくさんある。それを掘り起こしていち早く伝え、人々に新たな気づきを与え、社会をより良く変えていくための方策を提起していく。それこそが「スクープ」の本来の意義である。読売新聞はこれからもスクープ報道を追い求めていく。

朝来野 祥子

1999年入社。さいたま支局で警察、行政、教育などに携わった後、2005年より社会部、そして2013年より教育部に所属。文部科学省担当を経て、現在は遊軍記者として「教育ルネサンス」などの企画記事を担当。

桜木 剛志

2006年入社。教育学部卒。熊本支局で警察や行政な
どを担当した後、2011年に西部本社の社会部へ。
2013年より東京本社の教育部に出向し、朝来野と
ともに教科書謝礼問題にかかわる。現在は再び西部本
社の社会部に在籍し、教育分野を担当。