PROJECT STORY ロシアによる ウクライナ侵略

INTRO DUCTION 最前線の声を拾うため、
記者たちはウクライナに向かった。

世界が最も注目する「現場」に、多くの記者が向かうことになった。
2022年2月24日に始まったロシアによる隣国ウクライナへの武力侵攻。ヨーロッパにとどまらず、世界に衝撃を与えたロシアのプーチン大統領による決断は、日本の安全保障環境の悪化にも直結しかねない。ロシアによる国際法違反が明確なこの戦争について、読売新聞は開戦以来、欧州に駐在する特派員を中心に、編集局の総力を挙げて詳報しつづけている。何より欠かせないのが、記者による現地からの報告だ。前線に身を投じた兵士や、ロシア軍による民間人虐殺を目の当たりにした人々…。戦争報道を肉付けするのは、記者が足で集めるウクライナの人々の証言だ。

PROJECT MEMBERS プロジェクト担当者

  • 写真記者
    三浦 邦彦
    MIURA KUNIHIKO
  • 写真記者
    関口 寛人
    SEKIGUCHI HIROTO
  • 記者
    倉茂 由美子
    KURASHIGE YUMIKO

EPISODE 01 侵攻開始。 カメラマンは、国境へ急ぐ 避難民と歩いた。

開戦前にウクライナ入りしていた特派員は、多くのウクライナ市民が、ロシアが侵攻してくるとは信じずに、直前まで買い物などの日常を楽しんでいると伝えていた。
しかし、2月24日にプーチン大統領が、国営テレビを通じて緊急演説すると状況は一変。ウクライナの首都キーウ(キエフ)でも爆撃が相次いでいると報じられ、人々はポーランドなど隣国へ避難を始めた。写真記者の三浦邦彦は、前日の23日、ウクライナ西部リビウに到着。すでにウクライナ入りしていた特派員に合流した。

三浦はリビウからポーランドに向けて避難する人々に同行し、その表情をカメラに収めようと決めた。しかし、ポーランドとの国境付近の道路は大渋滞している。国境の手前26㌔の地点で、乗ってきた車を降り、大勢の避難民とともに歩きはじめた。スーツケースを引きずる人、道端に荷物を遺棄する人。気温は氷点下で、携帯の電波状態も悪い。疲れ切った人、焦りを募らせる人、家族と別れ涙する人…。道すがらで、様々な表情を捉えた写真は、衛星電話を使って東京本社に送稿した。路上で一夜を過ごし、自身も、同僚の特派員とともにポーランド国境に着いたのは28日朝になっていた。

EPISODE 02 「死は恐れない」 と語る兵士のそばで、 母は涙ぐんだ。

社会部記者の倉茂由美子は4月中旬、ウクライナ西部に入った。ポーランドで通訳や車などの手配を進め、安全確保を万全にした上での入国だ。役に立つ場面がないといいなと思いながら、防弾チョッキやヘルメットも荷物に詰め込んだ。
主に日本国内のニュースを手がける社会部も、倉茂のような特派員経験者や語学に堪能な記者を中心に取材チームを編成。開戦以来、ウクライナ報道に携わっている。倉茂も渡航前はSNSなどのツールを使い、ウクライナの人たちとコミュニケーションをとり続け、国内からウクライナの人々についての記事を出稿していた。

入国して最初の取材は、リビウ近郊で行われた兵士の葬儀だった。侵攻初日に犠牲になった22歳の若い兵士の遺体がようやく見つかり、遺族の元に返ってきたのだ。泣きじゃくる遺族の姿や、若い兵士の死を町全体が悼む光景を目の当たりにして、戦争の理不尽さが胸に迫った。墓地まで進む道の両脇では、市民がひざまずいて遺体を乗せた車を見送った。
東部の激戦地を経験した兵士を取材した時にも心を揺さぶられる場面があった。重傷を負って療養中のその男性中尉は、「再び平和を取り戻すために今、戦わねばならないなら、死は恐れない」と語った。回復すれば、再び部隊に復帰するのだという。しかし、インタビューの場に現れた高齢の母親は涙を見せ、「もう子どもに先立たれる思いはしたくない。必ず生きて帰ってきてほしい」と声を絞り出した。

EPISODE 03 次々と明らかになる ロシア軍の残虐行為。 それでも、 両脚を失った女性は 笑顔を見せた。

写真記者の関口寛人は一時、ロシアが制圧した首都キーウ(キエフ)近郊ブチャの取材を経験した。ブチャは、ロシア軍撤収後に民間人400人以上の遺体が見つかった場所だ。処刑された可能性が高いだけでなく、一部の犠牲者には、拷問も行われた痕跡があることで国際社会はさらに衝撃を受けた。読売新聞は、この虐殺で夫を失った女性をインタビューしている。拷問も行われたことで、女性はさらに深い心の傷を負っていた。関口はこの女性の涙を写真に捉えた。
ただ、凄惨な話題が続く中で、明かりが差し込むような話題に出会うこともある。
5月、地雷で両脚を失いながらも、6年来の恋人との結婚を果たした女性の笑顔が紙面を飾った。日常を取り戻し、幸せを紡いでいこうと努力する人々の姿を伝えることも新聞の大切な役割だ。

EPISODE 04 データも駆使し、 多角的に戦況を伝える。

ウクライナ報道を通じて、読売新聞は新たな取材手法の活用も始めている。広く公開されている大量のデータを分析する「データジャーナリズム」と呼ばれる手法で、5月に紙面と読売新聞オンラインの双方で展開した、衛星写真を駆使したウクライナの戦況分析がその一例だ。
使用したのは、ロシア軍が苛烈な攻撃を続けた南部マリウポリの様子をとらえた衛星画像だ。火災が集中する区域が、市中心部に移動していく様子を時系列で表現し、視覚的にわかりやすい工夫を凝らした。
読売新聞は経験豊富な記者が、現場で当事者から引き出す証言に加え、デジタル時代の新たな手法も駆使して、終局の見えないこの戦争を報じていく。

RECOMMEND CONTENTS