PROJECTSTORY

#しんどい君へ

01

未来ある子どもが、自ら命を絶つ。そんな悲しい事態が、この日本で日々起きている。2019年度の未成年の自殺者数は659人にのぼった。自殺が1年で一番多い日は毎年決まっている。多くの学校で夏休みがあける9月1日だ。
学校にいくのが、つらい。それなら行かなくてもいいよ。君は何も間違っていないんだよ。そんなメッセージを新学期前に伝え、若者の自殺を止めようと2019年8月、2020年7月の2回にわたって行われたのが、読売新聞教育部による、いじめや不登校、親子関係などで悩み、傷つき、苦しんだ経験を持つ著名人へのインタビュー企画「#しんどい君へ」だ。

STORY01

どうすれば、
若者に思いが伝わるか。

伝えたい相手は、10代の若者。それならば、新聞紙面だけで伝えるのではなく、インターネットでも伝えなくてはならない。そう考えた取材班は、弊社のニュースサイト「読売新聞オンライン」や外部のニュースサイトへのニュース配信などを担当するメディア局と話し合い、「#しんどい君へ」を紙、自社サイト、外部ニュースサイト、動画といったメディアミックスで展開していくことを決めた。読売新聞オンラインでは会員に限定せずにロングバージョンの記事を載せ、インタビュー動画も撮影することにし、さらに、ニュースサイト各社には、「若者の自殺を防止する」という社会的な意義を訴えて、配信への協力について協議した。
多くの社は協力の姿勢を見せてくれ、中でもヤフーは、過去に自殺問題に関する特設サイトを作るなど、いじめや若者の自殺防止について独自の取り組みを進めていたこともあり、「#しんどい君へ」でも共同企画という位置づけで記事を展開していく合意が取り交わされた。企画の概要はおおよそ固まった。

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#しんどい君へ

STORY02

誰かを救うメッセージを
届けたい。

若者は動画への親和性も高いが、長すぎても飽きられてしまう。そこで、取材時に同行してもらった社内の動画担当・ストリーム班からのアドバイスもあり、動画は3分程度に編集し、最後に、著名人がカメラ目線で語りかけるようなメッセージを撮ることにした。結果、2019年8月20日掲載の女優・秋元才加さん、お笑いコンビTIM・ゴルゴ松本さんを皮切りに、中川翔子さん、ゆうこすさんなどからの、「誰もあなたの命や時間を奪うことはできない」「教室以外にも居場所はある」といった心に突き刺さるメッセージを届けてきた。同年8月29日には、人気ロックバンドRADWIMPSの野田洋次郎さんも登場。6000字以上におよぶメッセージを新聞紙面とウェブサイトで届けた。

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#しんどい君へ

STORY03

そして、1つの記事が
大きな反響を生む。

大きな反響があったのが、2020年7月3日掲載のお笑いトリオ「ジャングルポケット」斉藤慎二さんの回だ。「虫捕りに誘われて待ち合わせ場所に行ったら、お前が虫だと言われて袋だたきにあった。だけど笑えと言われて、無理やり笑った」「背中に彫刻刀を突き刺されることが続き、親や周りに悟られないように黒い服を着ていた」......。これまで自身のいじめ経験をあまり話してこなかった斉藤さんだったが、「自分が役に立てるのなら」と、途中涙も流しながら打ち明けてくれた。言葉を失うような数々のエピソードに、取材していた記者も耐え切れず、涙を流した。

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#しんどい君へ

STORY04

人と人をつなげる役割。

斉藤さんは記事内で「少しでも悩んでる事があったら直接相談しに来なさい」と話してくれた。お笑い芸人の衝撃の告白はツイッターなどのSNSでも広く拡散し、取材班には多くの反響とともに、若者からの切実な悩みも届いた。そこで、8月には「しんどい君へ 斉藤さん相談室」として、斉藤さんが読者の悩みに1件1件、答えてくれる企画を展開した。その後も斉藤さんのツイッターには数百件の悩みが寄せられ、斉藤さんは一人ひとり相談に応じている。
しんどい。そんな時に手を差し伸べてくれる大人はいる。相談する場所はある。それを伝えるために、どうすればいいのか。媒体、伝え方、人選......。そのすべてをチームの合わせ技でなしとげ、伝えるべき相手に伝え、人と人とをつなげる。特ダネとはまた違う、新聞の大切な役割なのだ。

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